2024.05.09
演奏会
東野珠実作曲「幻想女楽『花かさね』」について、作曲者よりご寄稿いただきました。
若菜下巻に描かれた六条院の女楽は、光源氏を取り巻く女君が一堂に会する、物語の進行上も重要な場面です。女君達それぞれに運命を背負い、互いの心情が御簾のうちに交錯する劇的な展開ながら、ここに彼女らが奏する具体的な曲名が記されていないことが一つの謎とされております。しかし、「記述がないが故に創造の余地が残されている」との、国文学者として源氏物語の音楽を生涯をかけて研究された故・石田百合子先生のご示唆によって、拙作幻想女楽『花かさね』が誕生しました。(2008年伶楽舎委嘱作品 雅楽コンサートno.20“御簾のうちそと”にて初演)
初演版では演奏を主体とする意味で一人の奏者が複数の人物を弾き分ける形となりましたが、このたびの改訂にあたり、極力、物語の記述に沿って楽曲を再構成いたしました。絃物を中心に展開する本作は、平安時代に重用された琴を含む現在では大変珍しい編成です。そして今回、歌物には平安時代の音韻を用いることとし、私の女子高生時代からご縁のある深澤節子先生にご指導いただきました。さらに、現在伝承が途絶えた『葛城』の再興にも挑戦します。楽器各々の音色の肌触りをお楽しみいただきつつ、めずらしく今めきたる“響きのかさね”を創出したいと存じます。どうぞご期待くださいませ。
東野珠実記