2019.05.21
演奏会
舞楽「青海波」の装束は、舞楽装束の中でもこの舞にしか使用されない別装束です。重ねた装束の一番上に着る袍は、萌黄色の顕文紗(けんもんしゃ)に青海波模様が織りだされ、さらにたくさんの千鳥がそれぞれ違う姿で刺繍されるというたいへん美しいものです。
過日、京都にある織工房、大根屋さんをお訪ねし、青海波の袍を織る所を見学させていただくという貴重な機会をいただきました。
袍となる顕文紗を織る織機では、緯糸(よこいと)を巻いた杼(ひ)が水に浸され、濡れた状態で織られていきます。これは一本一本の糸が良く締まった状態で織るためだそうです。
緯糸が乾くとそこだけ色が変わってしまいますから、織っている間はお手洗いにも行けないという繊細な作業。乾く間に布が縮まないよう、こまめに板を挟んで布を横に張ったり、織りあがった表地の出来を鏡に映して確認したりしながら作業なさっていました。
生糸をブラジルから輸入し、手織りから機械織りへと変わった現代でも、やはり繊細な作業の積み重ねによって、あの美しい青海波模様の布が生まれるのですね。織り上がった布には、さらに千鳥の刺繍が施されて仕立てられます。数えきれないほど沢山の作業と工夫、ご苦労を経て装束が出来上がることを実感し、感動いたしました。
この度の演奏会では、こうして新たに仕上げられた装束を井筒装束店様のご協力により使用させていただきます。袍、半臂、下襲、差貫、金帯、踏懸、太刀、平緒と、それぞれに美しい織と模様をもつ、青海波でしか用いられない装束の美しさも、どうぞご堪能下さい。